君がいなくてもnatuはもう一度
第一章 優しい花のつぼみ。

蒸し暑い教室の中、窓を見ていた。小学生が自転車をこいでいる。女性が買い物かごをぶら下げながら歩いている。「---くん!」あの車はどこへ行くんだろう。「--瀬くん!」あー眠い。昨日夜遅くまで・・・「成瀬くん!」
静かな教室に先生の声はよく響いて成瀬海斗(なるせかいと)は窓から目を離した。。「あ、はい?」
このやる気のない返事が先生の怒りに触れた。先生は教壇から降りて獣の雄たけびのような声を僕になげかけた。「はい?じゃないでしょうが。あなたの見るべきなのは外じゃなくてこの黒板です。ちゃんと集中しなさい。」
夏休み最終日の中わざわざ補習に来ていたという現実に戻された。「わかりましたよ。もう外なんて見ないで黒板見ますよ。」
「それ3回目ですよ?しかも同じ言葉。本当にわかってるんですかね・・・・。」
はぁ。めんどくさいなぁ。「じゃあ先生。なんのために勉強するんですか?」
「うーん。将来にでて困らないようにするため、将来の選択を広げるためです。」
たしかにそれは一般の高校生には一理あるなと思った。でも僕は例外だった。だと思いたかった。「じゃあ僕は勉強しなくていいじゃないですか。」
「なんでですか?成瀬君。」
「だって僕は人生捨ててますもん。なんとなくこの高校に入っただけ。将来なりたいものもないですからね。もうこの世に未練なんてないですよ。」
「はぁ。君は明日にでもいなくなるんですか?いつかは就職やら社会に出るときがあるんですよ。そのための準備と思って今やるべきのこの課題を終わらせなさい!」
これ以上自分の世界観を話しても意味のないと判断した僕は諦めた。「はいはい。わかりましたよ。べんきょーしまーす。」
あーあ。とても腰が痛い。あの気だるい補習を高校二年生が4時間も耐え続けるという地獄を耐え抜いた自分を褒めたたえたい。コンビニのイートインスペースで自分へのご褒美に買ったアイスを食べながら思った。さらに課題も出され、明日からは普通の授業。アイスの冷たさと現実のだるさが頭に響いた。

今日の教室はいつもよりなんだか騒がしかった。僕が隣に真新しい机と椅子が置いてあることに気づくと、
「おはよ。なんだか転校生が来るみたいだね。」
と、同じクラスの雪乃礼音(ゆきのあやね)が言った。
「へー。男?」
「いいや。女子。結構可愛かったよ。いや、可愛いってゆうよりか美人って感じだったかな。さっき職員室にいったところ見たけど。」
だからこんなにも盛り上がっているのか。前に男の転校生が来たときより2倍くらいテンションが違った。おそらく雪乃の他にも見た人がいるのだろう。
「ふーん。そうなんだ。教室の騒がしさも納得だよ。」
そんな会話をしていると昨日の地獄を思い出させる声が教室に通った。
「はいはい。みんな席に着きなさい。それじゃあ入ってください」
と、先生は言ったと同時に転校生は入ってきた。そいつが入ってきた瞬間雑談はやみ、視線が一点に集まった。なんだかそいつは変な感じの人だった。表面上に変とゆうわけではないが疲れているように見える。制服は皺ひとつなく、黒くて長い髪もよく手入れされていて、彼女には似合っていた。その朝は誰もが彼女のことを見ていた。近くで見ると無表情のお面をしているような感じで綺麗だったけど本当に無表情だった。細く白い指が僕の横の机にリュックをかけた。
「よろしく。僕は成瀬海斗。」
僕が自己紹介をしたらなぜかその無表情は崩れた。僕の名前をわかりきっていた感じの表情をしていた。その中には安心や驚き、困惑の感情も混ざっているように思えた。
「初めまして。私は佐倉優花(さくらゆうか)です。よろしくお願いしますね。」
なんだかどこかの貴族みたいな話し方だった。それと同時になんだか聞いたことある透き通った声だった。どこで聞いたのだろうか。悩んだ末結局どこで聞いたことある声だったかもわからなくなってきた。考えるのもめんどくさくなり自分の思い違いということで僕はスマホに目を移した。

一時間目は数学だった。ただでさえつまらない勉強が数字の羅列をトッピングすることでさらにだるくなる。なんてことを考えていると中野凪(なかのなぎ)からのメールが僕のスマホに飛んできた。
佐倉とは幼稚園から今の高校までずっと一緒の学校に通い、同じクラスだった。まあ腐れ縁みたいなものだろう。
〉〉佐倉さんめっちゃ綺麗じゃね?お前なんか話しかけたか?どんな感じだった?
〉〉別に普通だったけど。話しかけたけどよろしく程度だよ。
〉〉それだけかよっ!あんな美人と話せる機会があってそれだけ?!お前はいいよなぁ。隣で。佐倉さん彼氏とかいんのかなぁ?
〉〉んなもん知るか。自分で昼休みにでも聞け。
なんだかめんどくさくなりそうなのでスマホの電源を落とした。中野のほうを見るとこちらを見て二ヤついていた。
一方、佐倉のほうを見るとなんだか授業は聞いているのだが中身の内容はまるでどうでもよいみたいな目線だった。なんだか少し奇妙に思えてきた。
次の時間は国語総合だった。テーマに沿って書いた物語を隣の人に発表して提出する、というものだった。テーマは 日常 という小難しい物だったが、僕は結構読書はしていたのでそれなりに書けたという実感があった。そして授業も後半になってきたところで発表となった。
まずは僕が佐倉に物語を発表した。僕が中学生のころ通っていた塾の先生に書いた小説を見せたことがあった。その先生からは、称賛の声をもらったくらいだから、一時期、小説家を目指したこともあった。
だが、佐倉は意外な言葉を発した。
「それが成瀬君の思い描いた日常なんだ。比喩とか文体はよかったけど、なんだか・・・つまらなさそうだね。」
「別に誰だってこんなものだろ。佐倉のも聞かせろよ。」
「いいよ。じゃあ発表しますね。」
僕は佐倉のを聞いた。正直な感想はすごかった。僕の思った、{すごい}はまるで小説家が書いたようにすごいのではなくて、この物語を先生に提出しようとしている佐倉をすごいと思った。
佐倉のはこんな物語だった。まず最初に設定された登場人物が死ぬ。それからどこか違う世界の佐倉優花という人の日常の話しに切り替わる。その佐倉優花の日常はとてもつまらなかった。学校に通っているが授業は聞いているフリ。友達もいない。そして最後は佐倉優花も重い病気にかかり、死んでいくというものだった。
「率直な感想言っていい?」僕は一応許可を取った。
「どうぞ?これが私の日常をテーマとした物語です。」
「あのさ。これ佐倉の日常書くのではないよね?てか、そもそも日常じゃなくないか??」
「そう?私は日常というテーマに沿って書いただけだよ。私のことを主にして書いたところがポイントです。私に日常なんてないけどねそもそも。毎日が地獄だよ。」
事実?この人は何を言っているんだろうか、という疑問となんだか佐倉が病気にかかるなんてことはなさそうだなと思った。
「てか、どうせ成瀬君もこんなこと思ってるんでしょ?失礼だけど。だってなんか成瀬君死にたそうな顔してるよ。」
本当に失礼だなと思った。まあ別に間違ってもいないから否定する気にもならない。
「それ僕に言ってなかったら名誉棄損で訴えられてたね。」まだあって3時間も満たない人に死にたそうな顔しているよとか言う人なんているのだろうか。それに実際、今話してみて見た目からは想像しないような感じで若干驚いている自分もいた。
「まあある程度は当たってるよ。僕も毎日が地獄というわけではないけど毎日が億劫だよ。」
「だろうね。名誉棄損で訴えられる可能性は低くなったね。なんか成瀬君とは気が合いそうだよ。」
正直、もう佐倉とは関わりたくなかった。何考えているかもわからなかったし、こんな綺麗な容姿には似つかない思考。こんな人と話ていたらこっちだけ疲れそうだったからだ。
そんなことを考えてたら他のクラスメイトはもう提出をペアごとに始めたところだった。
「僕は気が合いそうにないと思う。じゃ、ついでに提出してきてあげるから。それ貸して。」
「あれ?意外と優しいんだね。はい。」色々話していたせいで一番最後に提出する羽目になった。先生からはたくさん意見がでてたようですね、と言われた。そんな意見なんてだしてもいないのになと思いながら一番後ろの僕の席に戻ったとき、なぜか佐倉が僕のスマホを持っていた。
「なにしてんだよ。勝手に触らないでもらえる?」
「わかったよ。もう要件は済んだから。はい。」
何してたんだと確認すると、僕のメールに佐倉のメールアドレスが追加されていた。
「あのさ・・・。これ何事?」僕は佐倉のメールアドレスを佐倉に見せて確認させた。
「あー。成瀬君は日常がつまらないんでしょ?なら私という人物を入れて楽しくさせようという魂胆です。」
「ごめん。意味わからない。ということは、佐倉は僕の日常の一部にはいるということか・・?」
「ちょっと。思考が漏れてるよ。まあいいじゃん、私もつまらない日常に成瀬君を入れてあげるんだよ?お互いがお互いの日常に加わるみたいなもん。」
こいつは一体何を言ってるんだ・・・。僕の意見はまるで聞かないじゃねーか。と思ったけど言葉にするのはやめた。これ以上もう話をしたくなかった。というかクラスからの注目を浴びすぎていた。
この日からつまらない日常に佐倉優花というめんどくさい人物のスパイスが強制的に加わってしまった。

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