溺愛しすぎじゃないですか?~御曹司の初恋~

『あれくらいでケガするって、鈍い子ね。』

その一言で俺の堪忍袋も限界に達した。
直ぐに親父に連絡を入れ今の状況を軽く説明し迎えをよこすように頼んだ。

親父も妻の行動に驚きと呆れを感じさせつつも『直ぐに向かわせる。お前は病院に向かいなさい。三人はエントランスで待たせとけばいい。』そう言ってくれた。


「迎えを頼んだから行くぞ。荷物を持って立て。」


もうここまでくれば言葉遣いなんて何でもいい。
目の前で親父に連絡を入れられた事で母親の顔は青ざめ、親友とその娘はオロオロとし始めた。
そんな三人をエントランスの外まで連れて行き、俺は急ぎ自分の車で病院に向かった。

病院に着くと中央受付前で内藤さんが待っていてくれた。


「内藤さん!李子は。」

「大丈夫だ。命に別状はないし、今は眠ってる。」


良かった。

早く顔を見て安心したくて李子のもとへ行こうと急ぐ俺の腕を内藤さんが掴み止めた。


「李子ちゃんに会わせる前に話を聞きたい。」


内藤さんが救急隊員から李子が倒れた時の状況を教えてくれた。
李子は駅前のカフェで注文をした後急に椅子から崩れ落ちるように倒れたそうだ。
店員いわく店に入った時から少し辛そうな感じだったと。

そして一番不思議だったのが李子はスマホ以外の荷物を持っていなかったと。
買い物に出たのならカバンもしくは財布くらい持っているであろう。


「大輝君、李子ちゃんに何があったか心当たりはないか?」


思わず息を飲んだ。

母親の行動が原因のはず。

しかもそれは俺が李子と同棲をしたいと申し出た時に内藤さんから、『噂を聞いたんだが大丈夫なのか』と忠告された事だった。


「あります。・・・実はさっき家に帰ると李子ではなく俺の母とその親友と娘が家にいて・・・。」

「それは前に僕が聞いた話の人達だね。」


俺は頷くしか出来なかった。

あの時、母親からその話を聞いていたが即断りを入れ、親父もじいさんも李子の事を了承してくれたから、つい先ほどまでその話はもう終わったものだと思っていた。
『それで?』と内藤さんが続きを話すように促した。


「俺は李子との事を親父もじいさんも認めてくれたから話は終わったと思ってました。それが今日、急に押しかけてきて。・・・、詳しくはまだ聞いて無いので分かりませんが、出てくるときに母が李子を玄関の外に突き飛ばしたと、その娘の方が言ってました。それで廊下の壁にぶつかってたと。」


『そうか』と言い黙り何か考え込む内藤さんだった。


「大輝君、李子ちゃんの倒れた原因は流産だよ。」

「流産・・・。李子は俺の子を妊娠してた?」

「そう。たぶん本人も気づいてなかっただろうけどね。君の話から、押し倒された時に下半身をぶつけたことで流産を引き起こしたんだと思う。医師から背中に打ち身があったと聞いているからね。」


李子が俺の子を宿していた。

その子を母親が突き飛ばしたことで亡くしてしまった?
今まで抱いたことのないくらいの怒りが沸々と沸き上がり、途中から内藤さんの話が耳に入って来ない。


「大輝君!大丈夫か?・・・、今から李子ちゃんの部屋に案内する。でもあの子が目覚める前に今日は帰ってほしい。そして暫くは家で体と心を休ませる。あの子の荷物、当面の着替えを明日うちに持って来てほしい。そして、その間に君はこの状況を作った原因を片付けろ。それが出来なければ李子ちゃんに会わせることはしない。」


俺は思わず目を見開き『いや、それは』と言いかけたが内藤さんの目を見て言い返す事ができなかった。

ちゃんと事が落ち着くまで李子に会わない事を了承すると病室に案内された。

ベッドに横たわる李子の腕には点滴が繋がっているが顔色はいい事に安堵した。
ベッドの横に座っていたお母さんに謝罪し五分ほどで病室を後にした。
李子の母親には内藤さんが事のあらましを話してくれるらしい。


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