溺愛しすぎじゃないですか?~御曹司の初恋~
食事を済ませ昨晩からお世話になりっぱなしなのは本当の事なので『片づけは私にさせて下さい』と、私は今キッチンに立っている。


「なんか夢みたい。李子が俺の家にいて、しかもキッチンで作業してるなんて。」


カウンター越しに私が洗い物をしているのを先ほどと同じくニコニコ顔で眺め、独り言を言ってる先輩。

やっぱりヤバい人?


「先輩、これ終わったら帰りますね。昨晩、連絡入れてないから母も心配してましたし。」


起きて冷静になりスマホを見れば、何件も母からメッセージが入っていた。


【後輩の嘔吐物が服にかかって、気分悪くなったから近くに住む先輩の家で泊まらせてもらった。連絡できなくてごめん。】


と急ぎ連絡を入れると直ぐに


【事故や事件に巻き込まれてなくてよかった。】


と返信が返ってきた。父の事故以来、連絡が取れなくなると凄く心配する母。今回も私を心配して、たぶん寝ずに待っててくれたのだろう。


「もう帰るの?んー、でもお母さんが心配してるならしょうがないか。約束通り送ってくよ。」

「いえ、服も大丈夫ですし電車で帰れますから。」


その返事を聞き少し不機嫌になった先輩。


「ねえ李子。俺の事ずっと『先輩』って呼ぶの?李子はもう俺の彼女なんだよね?彼氏の俺が送って行くのは迷惑?」

「えっ?いえ、せん・・大輝さん」

「『さん』いらない。」

「だ、大輝も昨日寝るの遅かったし疲れてるでしょ?だから・・・。」

「ん、俺の心配してくれてありがと。でも俺が少しでも李子と一緒にいたいから。ねっ?」


そこまで言われると頷くしかなかった。
このまま奈津に連絡を入れて話を聞いてもらいに行こうかと思ったのに出来ない・・・。
とりあえず帰ったら電話を入れて聞いてもらおう。

片づけを終え、先輩に車で送ってもらった。
マンションの下でサヨナラしようと思ったのに『お泊りさせたから、挨拶してく』と言い切られ部屋まで一緒に行くことになってしまった。


「ただいまー。」


玄関から声をかけるとパタパタと急いで出てきた。


「おかえり。もう、心配したんだか・ら・ね?」


私の後ろに立つ人を見て『誰?』って顔をしてる母。


「初めまして。風間大輝と申します。李子さんとお付き合いさせてもらってます。昨日はハプニングがあって体調を崩した李子さんを家に泊まってもらう事にしたのですが、連絡を入れる事を失念しておりました。ご心配をおかけして申し訳ございません。」


わお!さすが大輝先輩。

完璧な挨拶だ。つい1時間ほど前の姿と全く違う。
この様子だとお母さんもコロッと・・・。


「いえいえ、わざわざありがとうございます。さっ、中でお茶でもどうぞ。」


ほらね。好青年って思ったよね。


「ありがとうございます。でも今日は送ってきただけなので帰らせて頂きます。午後から仕事もありますので。」

「えっ?せ・大輝、今日仕事なんですか?」

「うん。急遽、前にいた部署にヘルプ求められてね。また連絡するよ。まだ疲れてるだろうから、ゆっくり休んで。それでは失礼します。」


私の頭を一撫でして先輩は爽やかに帰って行った。


「李子、彼氏いたのね。しかもあんな、いい人。社会人なの?」

「う・・ん、サークルの3つ上の先輩。」


その後、お茶をしながら母の質問タイムが何とか終了し、やっと自室のベッドに横たわれた。


「うーん、奈津に連絡入れたいけど余力がない・・・。」


奈津に明日会う約束だけメッセージで取り付け私は睡魔に負け深い眠りについた。


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