母を想えば
「“75%の人員削減”が合併の条件だったみたいで・・
向こうの会社も人員が飽和状態だったらしくて、ウチの会社の人間を切って、
そこに送り込む形で人員調整するって・・。」
「18からずっと頑張ってたのに・・?
高校卒業してずっと今の職場に尽くしてきたハヤトがなん・・!?」
「だからだよ・・・。
25%は優秀な人を残したいから、
“高卒”の人間は真っ先に切られる・・。」
「・・そんな・・・・。」
“戦後最大の不況”
ニュースを見てれば、
たまにそんな言葉が飛び交っていた。
バブルが崩壊して一気に折れ線グラフが下降を辿っているのは、専業主婦でも分かっていた。
でも・・・なんでウチに・・?
「トモコ・・・ごめん・・!!!」
“どうするつもりなのよ!?”
“ハルカだってまだ小さいのに!!”
“私たち明日からどうやって暮らしていけばいいの!?”
土下座をする姿に向かって、そんな罵声を浴びせる事なんて絶対にできない・・。
バブルの頃からおごらずに頑張っていたのを知ってる。
お小遣い制を自ら導入して、
お酒と煙草を断った努力を知ってる。
お小遣い制のくせに、雑誌に載ってた服を買ってくれた事を忘れてない。
お小遣い制のくせに、ハルカのオモチャと絵本を毎日のように買って帰ってきた事・・
「ハヤト・・・とりあえず・・
お風呂入ってきて・・。」
「・・・・・・・・。」
「大丈夫だよっ。
いざとなったら私も働きに出るから!」
「・・・・面目ない・・・。」
私とハルカの為に一生懸命働いて、
自分の事なんて後回しでいてくれたその背中を見てきたから、
罵声を浴びせる事なんて絶対に出来なかった。