母を想えば


「“75%の人員削減”が合併の条件だったみたいで・・

向こうの会社も人員が飽和状態だったらしくて、ウチの会社の人間を切って、

そこに送り込む形で人員調整するって・・。」


「18からずっと頑張ってたのに・・?

高校卒業してずっと今の職場に尽くしてきたハヤトがなん・・!?」


「だからだよ・・・。

25%は優秀な人を残したいから、
“高卒”の人間は真っ先に切られる・・。」


「・・そんな・・・・。」




“戦後最大の不況”


ニュースを見てれば、
たまにそんな言葉が飛び交っていた。

バブルが崩壊して一気に折れ線グラフが下降を辿っているのは、専業主婦でも分かっていた。


でも・・・なんでウチに・・?



「トモコ・・・ごめん・・!!!」


“どうするつもりなのよ!?”
“ハルカだってまだ小さいのに!!”

“私たち明日からどうやって暮らしていけばいいの!?”


土下座をする姿に向かって、そんな罵声を浴びせる事なんて絶対にできない・・。


バブルの頃からおごらずに頑張っていたのを知ってる。

お小遣い制を自ら導入して、
お酒と煙草を断った努力を知ってる。


お小遣い制のくせに、雑誌に載ってた服を買ってくれた事を忘れてない。

お小遣い制のくせに、ハルカのオモチャと絵本を毎日のように買って帰ってきた事・・



「ハヤト・・・とりあえず・・
お風呂入ってきて・・。」


「・・・・・・・・。」


「大丈夫だよっ。
いざとなったら私も働きに出るから!」


「・・・・面目ない・・・。」



私とハルカの為に一生懸命働いて、

自分の事なんて後回しでいてくれたその背中を見てきたから、

罵声を浴びせる事なんて絶対に出来なかった。























< 106 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop