母を想えば


「・・・俺にとっては・・・・
トモコとハルカが正義なんだ・・。」


「・・・・・・・・・・・・。」


背中に回された手がギュッと強くなる。
耳元で聞こえる声が震えている。


「ハヤト・・・何かあるなら、
いつもみたいに言ってよ・・?」


「俺・・・嘘つきたくない・・。
そんな男になりたくない・・・。

トモコにはいつも正直でいたい・・。」


「・・・・・・・・・・・。」


「俺・・騙したくない・・。
そんな大人になりたくない・・・。

ハルカの前では・・
胸張った父親でいたい・・。」


「・・・・・・・・・・・・・。」




重力がスッと離れる。
暗闇でも分かる視線を受け取る。


でももうその瞬間に、何年ぶりかにハヤトが使う歯磨き粉の香りが当てられた。





「文化祭の時のこと覚えてる?」


「忘れるわけないでしょ・・。」


「今もその気持ちは変わってない。」


「・・・・・ありがと・・。」


「あの時はさ・・口裂け女が怖すぎて逃げたけど・・。」


「最初で最後の破局危機だったよね。」


「今度はもう逃げない。」


「・・・・・・・・・・・・。」



「明日さ・・・すき焼き食べよう。」


「珍しいね・・・晩ご飯リクエストするなんて・・。」


「そこでさ、反抗期の娘も無理矢理一緒の食卓に座らせて、全部ちゃんと話す。」


「・・・・・・・・・・・。」


「俺やっぱりバカだけど、
でも正直に生きたい。

“賢い嘘つき”で生きるぐらいなら、
“大馬鹿の正直者”でいたいから。」


「うん・・・私はそんなハヤトの事が好きになったんだよ・・・。」


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