母を想えば
「じゃあ次にこちらの女性ね。
名前は【満島トモコ】
免許証ぐらいしか身元が分かる物が無かったから、帰ったら詳しく調べるね。」
「おいくつですか?」
「え~っと・・56歳だね。
・・・・56!?」
早苗さんのリアクションもよく分かる。やっぱりこの人は“奇跡の56歳”と言っていい。
・・・だからこそ、余計に殴られた痕が痛々しく見えてくる。
「何者だろうねこの人・・。」
「どっちが持ち込んだのかは置いておいて、“刃物”が用意されていたという事は、
どっちかに明確な殺意があったはずです。
恐らくこの2人の関係は、
一期一会では無いでしょうね。」
「検事長と美人さんか・・。
もしかしたら【愛憎劇】かもね。」
「どういう事ですか?」
「こういう地位が高い人なら、“愛人”の一人ぐらい居てもいいじゃない?」
早苗さんが杉内検事長の左手薬指を指さす。
「あ~・・・この女性と不倫しちゃってたパターンですか。」
「長年の禁断の関係の果てに、
別れ話がこじれて・・グサッ!!」
“お前たちドラマの見過ぎじゃ”
現職の刑事がちゃんと調べもせずに想像話を膨らませて、
長野さんに叱られたところで、
再び傘をさしてテントの外に出る。
「一応グルッと回りますか。」
「だね。」
全ての痕跡をかき消す土砂降りの中、
早苗さんと周囲一帯の確認に入った。
第1話 完