183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
『初めましてのご挨拶だから、きちんとしないと』

出かける前に、そう言っていた。

相手は鬼籍に入っているというのに、律義な一面もあるようだ。

それに対して柊哉はグレーの夏物のズボンに、白いTシャツと水色のボタンダウンシャツという普段着である。

一年の内、スーツを着ていることの方が圧倒的に多いので、むしろこっちの方が特別なのかもしれないが。

真衣のワンピースの半袖から出た細腕は白く、ふっくらと丸みのある頬が女性らしい。

出社する日は結わえている長い髪を、今日は下ろしていた。

艶やかな黒髪が風にそよぎ、祈りの中にいる真衣の横顔を隠してしまう。

その髪を耳にかける仕草に、柊哉の鼓動が跳ねた。

(真衣は時々、色っぽい。おかしな気を起こさないように気をつけないとな。手を出さないという約束は守らないと……)

数分後に目を開けて立ち上がった真衣が、スッキリとした顔で後ろに振り向いた。

「私はもういいよ」と、柊哉に場所を譲ろうとする。

「俺もいい。母さんに言いたいことは、全部言ったから。お前はなにを話したんだ?」

「内緒」

いたずらめかしたような笑みに、柊哉は眉を上げる。

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