183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
「言えよ。気になるだろ」

「大したことじゃないもの。単なる告げ口と――」

「おい」

「副社長業務、大変そうだけど頑張ってますよ、という話と、十月まではちゃんと料理をして食べさせますので食生活の心配はいりませんという話をしたの」

(十月十二日が、離婚する日だ。独り暮らしに戻ることを考えたら、寂しいな。真衣の前で、そんな女々しいことは言えないが……)

ふたりは並んで、もう一度手を合わせてから、芝生の道を引き返す。

なだらかな坂を下り、駐車場へ向かっていると、「ねぇ」と真衣に袖を引っ張られた。

「あそこ、桜が咲いてる」

彼女の指さす先、三十メートルほど右に、駐車場を囲う緑の木々に交ざり、たくさんの花をつけた木が一本生えている。

柊哉の背丈ほどの高さで、花の色はピンクというより白に近い。

「あんな木があったんだな。気づかなかった。今、五月だぞ、桜じゃないだろ。果樹の花だな。りんごか梨か……」

「なんの木でもいいよ。お花見していこう。あそこに自販機があるよ。私、飲み物買ってくるね」

墓地で果樹の花見とは、おかしな気分だが、真衣が望むならと、柊哉は財布を取りだした。

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