183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
もう少しキスを続けたかったと思ってしまう心も恥ずかしく、顔を見られまいと彼から離れ、ステンドグラスに歩み寄った。

その美しさにもう感動は湧かないのに、「素敵」とため息交じりに言い、自分の気を逸らそうとする。

柊哉はスマホを取り出し、「あ」と呟いてから耳にあてた。

「もしもし、おばあちゃん」

(絹代さんだったんだ……)

思わず振り返ると、柊哉が好青年風の笑みを浮かべていた。

その顔を見て、墓地での打ち明け話を思い出す。

子供の頃から絹代には懐いているが、他の家族の手前、品行方正な振る舞いを心がけてきたというような話を聞かされた。

つまり絹代の前では、いい子ちゃんぶる癖がついているのだ。

「ああ。真衣さんとは仲よくやっているよ。心配しないで。……もちろんだよ。おばあちゃんなら大歓迎さ。いつでも遊びに来て」

(電話なのに、ピシッと立って爽やかに微笑んでる。私の前での崩した態度と、随分違うね……)

二面性に呆れてしまうが、自分の前で好青年の顔をされるのも嫌だと思う。

前を向いた真衣は、手持ち無沙汰を感じてステンドグラスに左手をかざす。

七色の光に煌めくダイヤを見つめたら、自然と口元が綻んだ。

(私は柊哉の妻。意地悪で偉そうでも、ひねくれて口が悪くてもいい。私の前では、素顔でいてほしい……)

絹代と話す、やけに爽やかな声を聞きながら、そのように願っていた。



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