183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
そのような心とは裏腹に、笑みを強めて言葉を返す。

「お気遣いありがとう。姉さんこそ子育てで大変だろう。なにもしてあげられなくてごめんな。お袋はどうしてる? 変わりない?」

「ええ。最近、お稽古事を増やしたみたいで忙しそうよ。心配なら電話でもしてあげて」

「そうだね。今度、時間がある時にゆっくり……。ああ、立ち話をさせてすまない。コーヒー淹れるよ。座って」

「残念だけどゆっくりできないの。娘のことで予定があるのよ。また今度、寄らせてもらうわ」

響子が出ていきドアが閉められると、柊哉は張り付いたような笑みをスッと消して、大きなため息をついた。

響子の清涼感ある香水の残り香に、顔をしかめる。

(姉さんは、苦手だ……)

柊哉は響子と一緒に暮らした日々を振り返る。

小学二年で引き取られた時、あの家は実質、女所帯であった。

祖父は存命していたが病がちで入退院を繰り返しており、父は仕事か、それとも亡き実母の他にも愛人がいたのか、帰ってくるのは週に二日ほど。

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