183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
(そうだ。サインした下半期の事業計画書、早めに啓介に渡した方がいいよな……)

秘書課に内線電話をかけようと机上の受話器に手を伸ばしたが、思い直して立ち上がった。

(昨日今日と、啓介には随分忙しい思いをさせているからな。俺から行こう。数時間座りっぱなしで、体も動かしたい)

副社長室を出て、廊下を進む。

この階は重役の個室と、応接室、会議室、秘書課があり、他の階と違って廊下にはフロアカーペットが敷かれている。

靴音の響かない廊下を秘書課の方へ進んだ柊哉は、角を曲がろうとしてピタリと足を止めた。

真衣がいるのだ。

彼女は数メートル先にある秘書課のドアに、耳を当てている。

その顔は、微かにしかめられていた。

(盗み聞きか? あいつはどこのスパイだよ……)

心の中でツッコミを入れた柊哉も、廊下の曲がり角に身を隠し、真衣を盗み見する。

真衣が秘書課に用があるとすれば、柊哉のことで啓介を呼び出すくらいだろう。

先週の、誕生日プレゼントの相談の時のように。

だがそれは、ネクタイという結論が出たはずだ。

他になんの相談があるというのか、見当がつかない。

< 152 / 233 >

この作品をシェア

pagetop