183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
思い出の女の子の正体は。離婚まであと29日
九月半ばになると暑さは和らぎ、幾分過ごしやすい気候になる。
日曜の十四時過ぎ、近所でトイレットペーパーやシャンプーなど日用品の買い物をした真衣は、「ただいま」と玄関ドアを開けた。
玄関には柊哉の通勤用の高級革靴もお気に入りブランドのスニーカーもあるので、家にいるはずだが、返事はない。
仕事の電話中だろうかと、そっとリビングのドアを開けたら、テレビで野球中継が流れる中、柊哉はソファに横になって午睡していた。
真衣はソファの背もたれ側から近づいて覗き込み、頬を緩める。
(やっと取れた休日だもの、そうなるよね。お疲れ様……)
半袖のTシャツとスウェットのズボンという部屋着で、半開きの口から気持ちよさそうな寝息が聞こえる。
子供みたいに無防備な寝顔を見ていると、愛しさが胸に込み上げた。
最近は折に触れて、彼への愛情が増しているのを感じ、困っている。
寝ぼけた顔で『おはよう』と言われた時や、疲れた顔で帰宅した時、真衣の料理を美味しそうに食べている時や口論している時でさえ、そうなるのだ。
まずいと思い、真衣はソファから離れて胸に手をあてる。
(これは恋愛感情ではなく、母性が刺激されただけ。家族愛のようなものだから。離婚の日まであとひと月ほど。惚れないように、ここで踏み止まらないと。すんなり別れられなくなる……)