183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
縁日が大規模に展開されるので、毎年母親は、娘に日本らしい夏を体験させるために連れて行っていた。

柊哉が家族に加わったため、その年は初めて三人で行く祭りであった。

柊哉は乗り気ではなかったが、自分が行かないと言えば中止になりそうな気がして、嬉しそうな顔をしてみせたという。

夕暮れ前の明るい時間に子供神輿を担ぎ、それから三人で屋台が建ち並んだ賑やかな通りを歩いた。

人出が多いなんてものではなく、ぶつからずに歩くのは困難なほどで、気づけば柊哉ははぐれてしまった。

財布はあっても中身は少額。タクシーは使えないと子供の彼は思い込み、駅までの道順もわからなかった。

九歳になったばかりの彼にはまだ早いと、携帯電話も持たされていない。

最初は心細さに必死に母と姉の姿を探したが、三十分経っても見つからないので、心に諦めが広がった。

もしかすると最初からはぐれさせることが目的で連れてこられたのかもしれない。邪魔者の自分は捨てられたんだ……そのような気持ちになっていた。

人混みの中をあてもなくとぼとぼと歩き、柊哉は神社まで戻ってきた。

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