183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
お前は一生、俺の妻。契約結婚を終える日
鰯雲が秋を感じさせる十月の朝。
オフィススーツに薄手のコートを羽織った真衣は、通勤用のショルダーバッグを手に玄関へ。
ローヒールのパンプスを履いたら、ワイシャツ姿の柊哉が見送りに出てきてくれた。
今日の彼は静岡に日帰り出張ということで、出かける時間がいつもと異なる。
「俺の帰りは二十三時を過ぎると思う。夕食は外で済ませるから用意はいらない」
「うん、わかった。行ってきます」
ごく普通に会話して玄関ドアへと片足を踏み出すと、後ろから肩を掴まれた。
顔だけ振り向いた真衣に、柊哉が口の端を上げる。
「行ってきますのキスは? してやろうか?」
いつものからかいだとわかっているのに、真衣はどうしようかと考えてしまう。
無言でじっと見つめると、不敵な笑みを崩した彼が焦りだす。
「おい、いつものように怒れよ。本気で怒らせたのかと心配になるだろ」
おかしなことを言った彼に、真衣は体ごと向き直って頬を染めた。
「怒ってないよ。してもいいかな、と考えてただけ」
「は……?」
眉を上げて素っ頓狂な声を出した柊哉の肩に、真衣は両手をかけた。
玄関と上り口はフラットだが、身長差は頭ひとつ分ほどあり、目いっぱい背伸びをして彼の頬にキスをする。
鼓動は三割増しで速度を上げ、自分からのキスを恥ずかしいと思うけれど、したいという気持ちを止められなかった。
柊哉は放心している。
唇を離した真衣は、羞恥心をごまかそうと、いたずらめかして言う。