183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
時間がないので追加の非難は心の中だけにして、今度こそ「行ってきます」と家を出た。

電車に乗り、二駅先で降りて、社屋までは七分ほど歩く。

安アパート暮らしの時は、三十分ほどかけてバス通勤していたので、経路が異なる。

ほんの少し秋色に染まった街路樹の葉や、開店前のブティックや飲食店。建ち並んだオフィスビルに吸い込まれていく人々を眺めて歩きつつ、この道の朝の景色を見るのは、あと一回しかないのだと感傷に浸った。

(今日は金曜日。土日を柊哉のマンションで過ごしたら、十二日の月曜がきてしまう。その日があの家で過ごす最後。離婚の日……)

寂しいと心が泣いているのはわかっている。

契約は守らねばならないという気真面目さの他に、自分には恋に臆病な面があるのだと、真衣は自己分析していた。

(もし私が好きだと言ったら、柊哉はどう返すだろう。鼻で笑って馬鹿にするか、やっと俺に惚れたかと得意顔をするのか、それとも……迷惑そうなため息をついて、意志の弱い女だと軽蔑するのかも)

真衣は結婚前の出来事を振り返る。

好青年だと思っていた彼の二面性を見てしまった日のことだ。

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