183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
自分にはもったいない高級品で、初めは安物の方が皺や型崩れを気にしなくて済むのにと不満に思っていた。

けれども着続けているうちにしっくりと馴染んで、今ではお気に入りの一着となった。

そのポケットにそっと手を入れると、冷たい金属の質感が指先に伝わる。

真衣の場合、結婚指輪は社内ではめるわけにいかないので、こうして持ち歩いている。

これも明日からは箱の中にしまい、家に置いてこなければ。

(悩むのに疲れた。もういい。私は大丈夫。できる限り気持ちよく別れることのみ努力しよう。さっぱりスッキリ。うじうじしていたら柊哉に嫌われる……)

昼休みの終了まであと十分。

真衣はやっとサンドイッチの包みを開けて、食べ始めた。


午後の仕事が終わり、退社時間になると、柊哉からメッセージアプリに連絡が入った。

【十九時半に帰る】

いつもよりかなり早い帰宅は、もちろん離婚の手続きをしなければならないからだ。

胸にズキッとした痛みを覚えつつも、真衣はうさぎが笑顔で親指を立てているスタンプを返した。

腕やストッキングが雨に濡れるのにも構わず、小走りで帰宅したら、すぐに夕食の支度に取りかかる。

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