183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
「墓参りに誘ったのは、生い立ちを話すことが目的だった。俺のこと、どこまでわかってもらえるだろうと、緊張しながら真衣の反応を窺っていた」

単に実母に妻を紹介したいというだけではない、真の狙いを今聞かされて、真衣は目を瞬かせる。

「それで結果は?」

いんげんの胡麻和えに伸ばした箸を止めて問うと、口の端を緩やかにつり上げた彼がフッと笑った。

「あの時に言っただろ。お前は啓介と同じ反応を見せてくれたと。俺の理解者がひとり増えたと感じた。震えるほどに嬉しかったな」

(よかった……)

妻審査に合格していたと知り、真衣の胸に安堵と喜びが広がる。

けれども今日で離婚すると思えば、それもむなしさに変わった。

「駐車場の脇にりんごの花が咲いていたの、覚えてる? 今は実がなっているのかな」

「なっているんじゃないか。赤く色づき始めた頃だろ」

「誰が収穫するんだろう」

「墓地のりんごを欲しがる者がいるのか。誰も取らずに落ちておしまいかもな」

せっかく実ったのにそんなの寂しいと、真衣の胸が痛んだ。

りんごにまで哀愁を感じてしまうのは、今日という日であるからに違いなかった。

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