183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
一千万円があれば乙女漫画の蔵書をもっと増やせると思い、お金に釣られて結婚したが、今となれば半年間の大切なふたりの思い出に値段をつけられたようで、少しも嬉しくない。

小切手でもらっても、きっと換金することはないだろう。

そう思いながら真衣は受け取り、うつむいた。

柊哉が席を立って問いかける。

「すぐ出られるか? 荷物は?」

「昨日のうちに段ボールに箱詰めした。今日持って出る物はボストンバッグに入れてある」

「じゃあ、出発するか。もう二十一時だ」

柊哉はスーツのジャケットを着て、真衣は薄手のコートを羽織る。

借りていた部屋からボストンバッグを出してきて、通勤用のバッグとふたつを両肩にかけると、柊哉が奪うようにそれらを片手で持ってくれた。

彼のもう一方の手にあるのは、離婚届を入れたクリアファイルと車のキー。

玄関へ足早に進む彼の背中に、真衣は黙ってついていく。

(提出まであっという間に終わりそう。苦しい時や悲しい時、柊哉はこうして感情を抑えて淡々とやるべきことをこなしてきたのかな。子供の頃から)

今もそういう心境なのだろうかと考えたが、思い上がりだと自分を非難した。
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