183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
「そういえば半年間、一度もアパートに帰らなかった。部屋の空気が淀んでそう。蛇口を捻ったら茶色い水が出たりして。埃っぽいだろうし、軽く掃除しないと寝られないんじゃないかな。もう少し早めに出ればよかった」

明るい口調で言ったのに、返事は「そうだな」のひと言のみ。

会話は続かず、結局真衣も黙り込んだ。

(もうすぐ他人になる女とは、雑談する気もないの? 私たちの間に愛情はなくても、柊哉も寂しがっていると思っていたのに、違ったみたい……)

濡れたアスファルトがヘッドライトや街明かりを反射させ、雨の夜道は意外と明るい。

十分ほど走って、車は区役所の駐車場へ。

十五台ほどの駐車スペースに、他に停められている車はなかった。

人の出入りのない鼠色の大きな建物は、時間外窓口のある出入口のみに弱い明かりが灯されている。

エンジンを切った柊哉が、小さく息をついてからこっちを見た。

運転中は不機嫌そうにも見えたのに、今は努力して口の端を上げている。

「真衣、半年間ありがとう。お前の料理や掃除に助けられた。社長に就任して重圧に胃が痛む時も、真衣の手料理はうまかった。感謝している」

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