183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
「他にももらったよ。私の庶民的な料理を美味しく食べてくれて嬉しかった。縁日やドライブは楽しかった。喧嘩も、今思えば楽しい思い出。たくさんの思い出をもらったよ。私のこれまでの人生で、一番濃い半年間だった」

「俺も……毎日が充実していた。生きているという実感があったな。一生忘れられない半年間だ。真衣、ありがとう……」

「よし」と気合を入れたような声を出した柊哉が、離婚届を入れたクリアファイルを手にして、車のドアを開けた。

「お前は待っていてもいいぞ」と言ったのは、雨に濡れることを心配してのことだろう。

「入口、すぐそこだもの。私も行く」

そう答えて、真衣は助手席のドアから雨の中へ。

折り畳み傘はバッグの中に入っているが、走れば二、三秒。出すほどではないと思ったのだ。

先にガラス扉の前の、雨の当たらぬ庇の下に着いたのは真衣であった。

振り向けば、ここまで二メートルほどの位置で、なぜか柊哉が足を止めている。

彼の髪やスーツの肩や腕が、見る見るうちに濡れていく。

「柊哉、早く」

真衣が呼んでも動こうとせず、彼はしかめた顔をうつむけた。

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