183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
(結婚が人生の一大事なら、乙女漫画の収集は人生最大の趣味。つらい時や悲しい時に、私のメンタルを前向きにしてくれたのは愛しい漫画本たち。戸籍を綺麗なままで保つよりも、私は乙女漫画を取る)

記入を終えたものは、次に勲と絹代に回される。

絹代が座卓の角を挟んだ勲の隣に寄り、並んで証人欄に記名した。

印鑑を押すと、手を取り合って笑みを交わしている。

「勲さん、出会ってから六十年以上経って、やっと婚姻届けに私たちの名前を書けたのね」

「そうだな。長かった。これでもう、いつ死んでもいい」

「勲さん」

「絹ちゃん」

長年引きずってきた初恋が実ったかのように、ふたりは歓喜の涙を滲ませている。

(そんなに好きなら、遺産問題とか世間体とか気にせず、自分たちが再婚すればいいのに)

老人ふたりの悲恋を聞いた時の感動は、すっかり冷めている。

婚姻届けまで用意していた身勝手さに、呆れの気持ちが勝ったからだ。

そのように冷静な真衣に対し、柊哉は目頭を押さえている。

(もらい泣き? 祖母に対しては、どこまでも同情的なんだ。なんでそんなに甘いのか。まるで、このお茶菓子みたい……)

真衣が生菓子を口にするのは、記憶にないくらい久しぶりである。

和装でお茶を楽しむような優雅な趣味は持ち合わせておらず、そのような場に誘ってくれる友人もいない。

記入済の婚姻届けを横目に、ふたつ目に手を伸ばす。

こんなに甘いのかと思いつつ、もぐもぐと生菓子を食べてお茶をすする、おかしな日曜日であった。


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