183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
寄せては返す波のような腹立たしさと闘っているため、今日中に処理しなければならない電子決算書類に目が滑る。

今日何度目かのため息をついた彼に、「柊哉」と声をかける者がいた。

秘書の須藤啓介だ。

啓介はクールな奥二重の目に細縁眼鏡をかけ、柊哉とだいたい同じ背格好の、見目好い三十歳の青年である。

柊哉より少し長い黒髪を七三分けにしているが、決しておじさんくささはない。

仕事の時だけそのような髪形にしている理由は、『秘書っぽいだろ』ということらしい。

彼が日葉に入社したのは、二年前の柊哉が副社長に就任した時で、それまでは異業種他社で社長秘書をしていた。

それを柊哉が口説き落として、自分の秘書としたのだ。

啓介との付き合いは小学校に入学した時からで、柊哉が本性をさらけ出せる数少ない友人のうちのひとりである。

いや、大人になってからは、そんな友人たちとの付き合いもほとんどないから、真衣に本性を知られるまでは、唯一の存在だったと言った方がいいかもしれない。

啓介とふたりきりの時は心を休めることができ、『お前じゃなきゃ駄目なんだ』と頭を下げて秘書になってもらったのだ。

< 71 / 233 >

この作品をシェア

pagetop