183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
働きぶりも優秀で、公私に渡って柊哉の力になってくれる彼には、感謝しかない。

「そろそろ出発しないと株主総会に遅れる」

そう話しかける声が真後ろから聞こえたので、柊哉は少し驚いた。

この部屋にはドア寄りに、六人掛けのミーティングテーブルがある。

執務机はブラインドを下げた窓を背にして置かれており、書類の詰まったオフィスラックとコーヒーマシン、観葉植物の鉢植え、目立つものはそれくらいであろうか。

啓介のデスクは同じ階の秘書課にあるが、ここにノートパソコンを持ち込んで仕事をすることも多い。

先ほどまでミーティングテーブルで黙々と仕事をしていたはずの啓介が、いつの間にか移動していた。

真衣との今朝の喧嘩に心を奪われていたため、後ろに立たれていることに少しも気づけなかったのだ。

けれども驚きはすぐに引き、振り返ることもしない。

啓介相手に身構える必要はないので、思考はぼんやりとまた真衣のことに戻される。

(謝ろうか……いや、向こうは引きずっていないだろうし、わざわざ蒸し返すような真似をしなくてもいいだろ。だが、謝って俺がスッキリしたい気もする……)

< 72 / 233 >

この作品をシェア

pagetop