183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
しかし、そこははっきりとした性格の彼女のことである。数分すると、しびれを切らしたように文句を言ってきた。

「言うのか、言わないのか、どっちなの?」

「お前は、俺の生い立ちを聞きたいか?」

「聞きたい。夫のことだもの」

「そうか……」

そう言ってもらえたことで、柊哉の心はやっと定まり、話し出す。

「俺の実母は――」

銀座のホステスで父の愛人であったことや、ひとりぼっちの寂しい食卓のこと。それでも母の愛を感じて、そこそこ幸せに暮らしていたこと。

小学二年生の春に母が事故死して、父の家族との生活が始まり、毎日がつらいと感じていたことなどを、説明的な口調で一気に話した。

わずか五分ほどの身の上話であったが、やけに喉が渇いて、道中で買った缶コーヒーを半分ほど喉に流し込む。

運転中のため、真衣の顔を見ることはできないが、なんとなく同情的な視線を感じる。

(そうなってしまうよな。あるいは真衣なら……と思ったが、仕方ない。真衣は少しも悪くない。だが、残念だ……)

彼女らしくない、恐る恐るといった調子で、「新しい家族に冷たくされたの?」と問いかけられた。

< 93 / 233 >

この作品をシェア

pagetop