183日のお見合い結婚~御曹司は新妻への溺甘な欲情を抑えない~
「へー、須藤さんと私、気が合いそう。自分を可哀想だと思ったら負けというか、人生を楽しめなくなりそうでもったいないと私も思う。早くにそれを言ってくれる友達がいてよかったね」

「ああ……」

高ぶる気持ちを抑えようとしても、口元がにやけてしまう。

(啓介と同じだ。俺の気持ちをわかってくれた……)

それが嬉しくて、できることなら抱きしめてお礼を言いたい。

プライドが邪魔をして、できそうにないけれど。

墓地に着いて車を降りても、まだ八時前であった。

盆でも彼岸でもないので、ふたりの他に人はいない。

墓は二百基ほどで、こじんまりとし、緑に囲まれてひっそりとしている。

綺麗に刈り揃えられた芝生の小道を踏んで、柊哉の母親の墓の前に立つ。

亡くなってからもう二十三年経ったとはいえ、ここに来れば当時の絶望的な悲しみを思い出して、胸に切なさが押し寄せる。

けれども今日はそれがない。

「母さん、久しぶり。今日は俺ひとりじゃないんだ」

妻を紹介するという目的があるから、感傷的にならずにいられるのかもしれない。

墓石の汚れている箇所をタオルで拭き、水をかけ、線香を焚く。

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