元カレ社長は元カノ秘書を一途に溺愛する
杏奈の父は終始機嫌がよく、会社での雰囲気とは全く違っていた。

「杏奈さん」
瑠衣がトイレに行っている時、瑠衣の父はその日唯一の真剣な表情で杏奈を見た。

「あいつは昔から会社を継ぐことを自分の運命だと言っていたんです。」
「・・・」
「そのために生きているようなところがあって、自分はたくさんの社員がいる会社を背負う器だからと、いろいろ我慢もしてきたと思うんです。」
知らない瑠衣の世界を知るようで、杏奈は真剣に瑠衣の父の話を聞く。
「瑠衣が初めて自分で留学してもっと薬学を学びたいと言った時、妻は今までで一番喜びました。自分の運命に逆らおうともせず、犠牲になるようにいろいろと口にもせずに我慢してきた息子の初めての意志に、本当に喜んでいたんです。でも、途中でその意志をまげさせてしまった。」
辛そうな瑠衣の父。
でも、それは瑠衣がちゃんと受け止めていることを知っている。
「そんな息子が、杏奈さんとの結婚に対しては今まで見せたことのないような強い意志を持っている。こんなにも感情で動ける男に育ったことを私はうれしく思っています。だから杏奈さん。」
瑠衣の父が杏奈の方にまっすぐに体を向ける。
杏奈も瑠衣の父の改まった雰囲気に背筋を伸ばした。
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