音楽を捨てた理由
洗面所へ歩いていると、分厚いドアの部屋が現れる。その場所を見るたびに、心音は足を止めてしまうのだ。ドアを開ければたくさんの機材が置かれている。もう使わなくなったマイクやパソコンが懐かしい。

心音は一年前まで歌い手として活動していた。歌い手名はハル。名前は好きなアニメ映画の主人公と同じ名前にしたくてつけた。

専門学校に通っている時、暇つぶしとして心音は歌ってみたを投稿した。歌ったのは祝福のメシアとアイの塔で、十人全てを一人で歌った。その一回の投稿で終わる予定だったのだが、一晩で何万回も再生され、歌い手ハルとして活動することにしたのだ。

「素敵な声……!もはや両声類を超えている!!」

「友達から勧められて見事にどハマりしました〜!!」

「七つの罪と罰、すごくよかったです!」

ハルのコメント欄にはいつも温かいメッセージであふれ、アンチというのもほとんどいなかった。だからこそ、心音はハルとして活動を続けられたのだ。
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