捨てられママのはずが、愛し尽くされています~冷徹社長は極上パパ~
 鳴を抱えたまま、もう片方の手で翠を抱き寄せる。びく、と一瞬肩が強張ったのを無視して、触れるだけのキスをした。

「……行ってらっしゃいのキスってこと?」

 なにも言わなかったのに意図は伝わったらしい。不意打ちに照れた翠がわかりやすく目を逸らして唇を引き結ぶ。気にしていないふうを装っているようだが、動揺が顔に出ていた。

「ただいまのキスもしてね」

 ふい、と背を向けて今度こそ家を出て行ってしまう。

 今のは強がって言っただけだろう。翠にはそういうところがある。そんなにキスしてほしいなら、今日は好きなだけしてやろうと思った。

「ママ、いっちゃった」

 まだ俺に抱えられたままだった鳴がしょんぼりしたように呟く。翠に置いて行かれておもしろくないのはお前だけじゃない。

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