捨てられママのはずが、愛し尽くされています~冷徹社長は極上パパ~
「この状況でそれを言うのか」

 ジャケットを脱ぎながら言うと、涼さんは結局着替えることなくシーツの上に膝をついた。

 長身からにじむ威圧感に圧倒され、さした抵抗もなく押し倒された状況を受け入れてしまう。私の顔の真横に手をつくと、涼さんはもう片方の手をネクタイにかけた。

「あ、それ好き」

「知っている」

 以前、ネクタイを解く姿が好きだと言ったことをこの人はきちんと覚えていてくれたらしい。前々から思っていたけれど、妙なところで記憶力のいい人だった。芽衣子の名前は今もまともに覚えているか怪しいというのに。

 長い指がするりとネクタイに引っかかり、締め付けを軽く緩めてから解いていく。慣れた手つきだった。衣擦れの音とともに仕事で見せている姿が崩れ、私に特別感を与えてくれる。

< 343 / 462 >

この作品をシェア

pagetop