君だけが知っている君へ。
まさか私の名前を知ってるとは思わなくて。

「私の名前……なんで?」

精一杯の返事だった。

「いつもテストのときに名前、呼ばれるでしょう?ねっ?」

確かに、ここの水泳教室では自己ベスト更新記録が出せるかどうかのテストが毎月ある。

「心桜ちゃん、私と一緒に泳いだんだよ!忘れちゃった?とりあえず、時間無くなっちゃうから遊ぼ!ねっ!」

私は自分の名前が呼ばれるだけでいつも緊張してしまうから、一緒に泳いだ子のことなんな気にする余裕もなくて。

そして泳ぐことに必死で何も覚えていなかった。

心の中で『ごめんなさい』と呟いた私のことはお構い無しに、結美は私の手を引いて人だかりの中へと連れてった。
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