ウルルであなたとシャンパンを
まだ午前中の今は、同じようなツアーに参加している観光客しかいなかったけれど、今夜はバレエが
あるから、ドレスアップした人達がたくさん来るだろう、と言っていた。
ドレスアップして、バレエを見に来て、その合間に夜景を眺めながらカクテルを飲む……
庶民家庭に育った香耶には想像するのも難しい、優雅すぎる夜の過ごし方をする人達が、あの広いホールを満席にするほどいるなんて、正直言ってピンと来ない。
けれど、それは毎年の恒例行事のようなものらしく、お姉さんはポカンとする香耶にさらっと言うと、一緒に案内されていた家族の記念写真を撮ってあげていた。
ツアーに参加していたのは、家族連れにカップル……1人なのは香耶だけ。
何か言葉を交わしあいながら解散する観光客達からそそくさと離れて、白いシェルの外へ出た香耶は、人の多い通りを戻る気になれず、目についた海に面した公園に腰を下ろしたのだった。
目の前に立つオペラハウスを見た瞬間には、一瞬どこかへ行った胸のチクチクは、ツアーの途中からまた痛みを増していて……最初はわからなかったものの、今はこの痛みがなんなのか、わかる気がしていた。
「なんか……疲れちゃったな……」