ウルルであなたとシャンパンを
オーストラリアへ失恋旅行
・日本を飛び立つ
あれから1カ月……
山本香耶(やまもと かや)は、はめこみ式の小さな窓から、真夜中の暗がりにきらめく街の明かりを見ていた。
あのまたたく光の群れに胸をときめかせていたのは、もうずっと昔のことのようだけれど。
あれは……そう、つい先月のこと。
あの夜景の見えるホテルで、いつものように彼を見上げ、ほほえみかけて……
子犬のように懐いていた自分を思い出して、香耶はまた、あふれてきた涙がほほを伝うのに気づく。
手にしていた紙ナプキンで乱暴にぬぐうと、クシャッと握りつぶした自分の指先に気づいて、眉をしかめた。
剥げかけたネイルと、小さなささくれ……指先もかさついている。
10代の頃から毎日かかさなかった手先のお手入れさえもサボっていたことに今更ながら気づいて、また涙がこぼれた。
「どうして……」
思わず漏れた小さなかすれ声に気づいたのか、誰かが、席の向こうの通路で足を止める。
「Are you feeling well? (具合が悪いですか?)」
顔をあげれば、通路を歩いていた金髪のCAさんがいて、香耶の顔を見ると驚いたように目を見開く。
「……あ……」
あわてて目元を指先で拭うと、金髪のCAさんは表情をおだやかなほほえみに変える。