ウルルであなたとシャンパンを
・結婚していた彼
彼との始まりは、友人主催の食事会……つまりは合コンみたいなものだった。
数合わせで呼ばれた席に、遅れてやって来たのが、彼で。
こざっぱりしてスマートなスーツ姿。
さりげない気遣いに、優しい笑顔。
目立つイケメンというわけではないけれど、落ち着いた雰囲気と清潔感があって。
営業職だと聞いて、なるほど、と思った。
向かい側の席に座っていたこともあって、香耶との話はいい感じにはずみ、帰りがけに声をかけられ、連絡先を交換した。
水族館に、カフェに居酒屋、ちょっとオシャレなレストラン……何度かデートをして、そういう関係になったのは、香耶にとって自然のなりゆきで……
ごく普通の、よくある出会い。
彼のことが好きだったし、一緒にいる時はいつも楽しかった。
忙しいらしく、会える機会はそれほどおおくなかったけれど、会えばいつも、彼は優しかったし、一緒に過ごす時間はいつでも楽しかったから、ワガママなんて言えなかったし、言わなかった。
それでも、付き合って1年が経った頃からは、こうやって、ずっと一緒に過ごせたら……と、思いはじめた。
なんでも話せる、大人の彼氏。
けれど、彼は……ずっと、大事なことを香耶に話さなかったのだ。