ウルルであなたとシャンパンを
23:45発 シドニー行き。
季節が全く逆の南半球の国、オーストラリアに向かう飛行機の中に並んでいるのは、金髪や赤毛のカラフルな色の頭ばかり。
外国の人がほとんどのようで、見える範囲で日本人らしき人はいない。
見たところ、満席ではないようだけれど、香耶の隣以外の空席はほとんどなく、家族連れが多いせいか、こちらに注意を払っている人もいない。
頭を巡らせていくと、少し離れたところには、小さな女の子と若い夫婦が座っていて、父親らしき男性が子供にジュースらしき飲み物を飲ませているところだった。
母親らしき女性は、それを眺めながらほほえんで、何かを言う。
すると、父親らしき男性は顔を上げ、女性にほほえみかけて、何かを言った。
小さな子供と夫婦の何気ないやり取り……今までならほほえましく思ったであろう、その光景が、今の香耶には鋭い刃物で胸を刺されるようにつらかった。
けれど、それに吸い込まれるようにじっと見入ってしまっていた香耶は、そんな自分に気づくと、さっき爪の先を見た時のように顔をしかめた。
逃げるような勢いで顔をそむけると、また、窓の外に視線を戻す。
どうして、こうなったんだろう?
傷んだ爪の先をイライラといじりながら、香耶はまた自問自答する。