ウルルであなたとシャンパンを

抱きしめられた腕の中、嗅ぎなれた男の匂いに、ぼろぼろと涙が落ちた。

「……やだ……もう、こんなの、って……」

しゃくりあげながら言う香耶をますます抱きしめて、彼はこれまでに何度かしたように、ゆっくりと香耶の髪を撫でる。

「傷つけて、ごめん……でも、俺の香耶への気持ちは変わらないから」


…………この男は……何を言ってるんだ?


ヒクッと香耶の肩が揺れて、すうっと詰まっていた熱い塊が落ちていく。

しゃくりあげていた香耶の呼吸がおさまっていくのを、自分の言葉のおかげだとでも思ったのか、香耶の体を拘束する腕にぎゅっと力が入る。

「俺にできることなら、なんでもするよ。だから……これからは友達っていうか……いい関係でいよう」

香耶の嗚咽が、完全に止まった。

「…………友達?」
「うん……友達っていうか……その、友達以上恋人未満っていうか……」

泣きぬれた顔のまま、見上げた男の目には、見覚えのあるアノ色が浮かんでいて……

香耶の視線は、自然と、それに繋がる、男の背後にあるベッドに移動した。


吐き気がする。


どうも、彼と香耶の"友達"という定義には、決定的な違いがあるようだ。

ついでに、"恋人"の定義も。


< 54 / 169 >

この作品をシェア

pagetop