ウルルであなたとシャンパンを
「大丈夫?」
生々しい記憶の中のフレーズに顔を上げ、目を見合わせると、相手の目の中にどこか後ろめたいような色が走った。
「やっぱり……夢なんかじゃ、ないよね」
「……え?夢?」
「なにしに来たの?」
「ああ、その……話をしに」
「話なんかないって、言ったでしょ」
少し大きくなった声のせいか、近くを通りかかった中年女性が、興味深そうにこっちを見た。
「ここじゃなんだし、中で話さない?」
「……中?……中って?」
「いや、だから……香耶の部屋でさ」
信じられない言葉に、ぽかんと口が開いてしまった。
この間の、今日で、なぜ香耶の部屋に上がれると思うのか……
相手の思考回路と頭のネジのゆるみ具合に、頭痛さえしてきた香耶は、肩を掴む手を押しやりながら、深いため息をつく。
「あなたをウチにあげるつもりはありませんし、話すこともありません。帰ってください」
「そんな……香耶、頼むよ」
「…………香耶なんて呼ばないで」
電話越しの声を聞いた時の寒気を思い出してしまいながらも、香耶はハッキリといった。
「あなたとは、名前で呼び合うような関係じゃない。全部ウソだったんだから」