ウルルであなたとシャンパンを
ゴウゴウと、嵐のようなエンジンの爆音にまぎれて思うさま泣きじゃくり、そのまま香耶は眠っていたらしい。
ふと、肌寒さに目を開けると、香耶は薄暗い機内を不安げに見回した。
少し寝ぼけているのか、自分が座っている座席を確かめるようにもぞもぞと芋虫のように体を動かし、ほう、と大きなため息をつく。
夢を、見ていたようだ。
幸せだった、少し前の頃。
あの人と過ごした2年間を、断片的につなぎ合わせた、せつないときめきいっぱいの、夢。
彼はいつも優しくて、大人で、ステキで……
香耶はいつも、少し爪先立つような気持ちで、彼の隣にいる幸せをかみしめていた。
かわいいよ、といつも褒めてくれていたし、好き、と言えば、笑って、俺もだよ、と返してくれていた。
こんな風に肌寒い夜には、抱きしめて……くれた時もあった。
あの時見えた夜景が懐かしくなって、下ろしていた窓のスライド扉を上げると、外に見えたのは、濃い青色と白。
思っていたよりも明るい風景の中に町の灯りはなく、見えるものは……何もない。
ただそこには、群青に近いような、透き通った青色をした空が広がっているだけだった。
「…………不思議……」