ウルルであなたとシャンパンを

「え?……ああ、まあ」
「なのに、どうして私が、あなたのために仕事を辞めなくちゃいけないの?」
「だから、それは……香耶の方が、派遣だし……俺は……ほら、家族もいるしさ……」
「……家族……」

この男のため、というのも嫌だけれど、この男の家族のため、は、もっと嫌だ。

キッと見上げた香耶の視線の鋭さに、失言に気づいた男が言い訳めいた言葉を口にする。

「あっ、いや、その……香耶だって気まずいだろ?だからさ」
「だから、辞めろって?……私にだって、生活があるのよ?ああ、"家族"、はいないけど」
「俺にできることはするから、頼むよ……」

さっき受け取らなかったビニール袋を香耶の手に握らせて、男は香耶の顔を覗き込むように、腰を落とした。

「確かに、いきなり辞めるのは、困るか……」

いや、困るとかではなく、話がおかしい、と言っているのだが……

香耶の言葉は、男の中で勝手に変換されてしまうらしい。

「じゃあさ、次の仕事が決まるまでの繋ぎっていうか……生活費?ちょっとなら出すから」
「……お金で解決しようっていうの?」

話にならない、と、握らされたビニール袋を突き返すと、男は焦ったように言った。

「あの、10万くらいならさ……俺、出せると思うから」


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