ウルルであなたとシャンパンを
見渡す限り、街も、山も、見えない神秘的な青色。
自分達が乗った飛行機だけが、ぽつん、と浮かんでいる。
そう考えると、今の状況が現実離れした、とても不思議なもののように思えた。
飛行機に乗るのは初めてのことではなかったけれど、これほど静かな気持ちで風景を眺めたのは、香耶にとって多分、初めてのことだった。
「一緒に、見たかったな……」
口をついて出た言葉に、冷水を浴びせられたようにハッと目が覚める。
ようやく目覚めたらしい香耶の頭が次に感じたのは、この数週間ですっかり慣れてしまった重苦しい悲しみだった。
ああ、そっか。
もう、あの人と一緒に、こんな風景を見ることはないんだ。
その事実に、ぽっかりとあいた穴を覗き込んだような気持ちになる。
思い返してみれば、あの人はいつでも会いに来てくれるわけじゃなかった。
仕事だとか、明日の朝は早いとか。
いろんな理由で断っていたのは、本当は家族がいたからだったんだ。
何度も思い返したその事実がまた思い起こされて、悲しみとせつなさが胸の中、雨雲のように暗くどんよりと広がっていく。
『結婚してるんだ』
あの夜の彼の言葉が、真っ暗な頭の中に、ひどくはっきりと響く。
『だから……香耶、おまえとは結婚できないよ』