【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)
「クラウト!!」
「ダメだ!!」
すぐに追って森へ入る。獣の目が高い位置で光る。熊だ。振り上がっている大きな手。もう、クラウトは捕食圏内にある。
私はクラウトをつかんで、来た道へ投げ飛ばす。同時にシュテルが近くの木に向かって弓を射た。熊の顔ギリギリに通過する矢に、熊の気がそれた瞬間、獣の懐に入り込んで剣を突き立てる。
私は熊から離れて、クラウトに近寄った。
血まみれの剣を持った私を見て、青ざめた顔をしている。
「クラウト。なぜ、離れた」
「……」
「君が私より森の知識があったとしても、個人行動は軍紀に反する」
「……はい」
「しかも、作戦前に攻撃魔法を使えばどうなるか分かっているか」
「敵を刺激します」
「そうだ、最悪作戦が無駄になるな。君は魔法の力なく熊を狩った経験はあったか」
「ありません」
「根拠のない自信は自然の中では死に直結する。以上」
私は剣を振って血を払い、鞘にしまった。
シュテルは、木の幹から矢を外しながらニヤニヤと笑う。
「クラウト。ベルンは怒れないんじゃないよ、怒らないんだ。怒ってみせないからといって、怒っていないわけじゃない。さぁ、熊を背負え」
シュテルの言葉にクラウトは素直に頷いた。彼は重いはずの熊を背負い、帰りは文句も嫌味も言わずに黙々と歩いた。
少しだけ彼を見直した。