【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)

 私はベルンシュタイン先輩が嫌いだった。
 引きこもり侯爵の二番目の息子とかで、めったに王都に来ないくせに、殿下の幼馴染として馴れ馴れしくしていたからだ。
 私だって侯爵家で、住まいは王都なのに、たった一つ年下なだけで殿下のお側に置いてもらえない。そのことが悔しかった。私は一学年の首席であり、私の方が殿下の友人として相応しいはずなのに、だ。

 私の家ヴルツェル侯爵家は、昔から王家に深い深い敬意をもってかかわって来た。私の父は国王の学友であったし、母は王妃と幼馴染、兄は第一王子と学友で仲が良い。それなのに私は、たった二日遅れて生まれてきたために、シュテルンヒェン第二王子と同学年になれなかった。そしてそのため、友情を育めていない。
 そのことを家族はとても残念がった。それでも何時かは、そう思いながら自己研鑽をしてきたのに、殿下は私ではなくベルンシュタイン先輩を側に置いた。

 だからことあることに、ベルンシュタイン先輩に挑戦した。私が彼より優秀だと分かれば、殿下も私を見てくれる、そう思ったからだ。
 しかし、ことごとく失敗した。でもすべてあと一歩なのだ。だから余計に腹が立つ。年下の私と変わらないくせに、どうして殿下のお側が許されるのか。
 フェルゼン先輩が殿下のお側にいるのは当然だ。二年生の中でも殿下についでの成績で、剣に関せば殿下よりも上の腕前。背は高く、筋肉もついた美丈夫で、出自も申し分がない。明るく男らしい性格は男の中の男と憧れの対象だった。
 それに比べて、ベルンシュタイン先輩は背も低く薄っぺらな身体。優雅だと言われる身のこなしは、文官ならともかく騎士としたらなよなよしすぎている。弓も剣も劣っていて、唯一のものは乗馬だが、そんなの名馬の名産地出身なのだ。馬がいいに決まっている。
 いつでも取り澄ました顔をして、麗しきマレーネ姫にでさえ目を奪われるようなことはない。だからクールな騎士だなんて呼ばれているけれど、きっと心が冷たいのだ。そんな人間は殿下に相応しくない。

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