【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)
「……こっちにも来てないか……」
落胆する兵士の声がする。
「お、今日の献上品がいるぞ」
「アイスベルクの馬か」
「ああ、いい馬だ」
兵士の会話に彼は嬉しそうにほほ笑んだ。
「ひきこもり侯爵様はこの馬に助けられてるようなもんだ。宮廷に居場所がないのにな、この馬を産出してる限り地位だけは安泰だ」
ブルン、スノウがいなないて歯を見せてカチカチと鳴らす。
僕の心臓も早鐘を打つ。荒々しく猛る動物を間近で見たことはなかった。
さっきまではあんなに優しかったのに、一転して大きな獣だと実感する。人知など通用しない相手なのだ。
熱い馬の体温。身震いする体躯。スノウが体全体で怒っている。怖い。
「やめろよ、馬が怒ってる」
「ええ? 偶々だろ? 馬に言葉なんかわかるもんか」
「アイスベルクの馬は賢いんだよ。俺も持ってるからわかる」
「……」
兵士の一人が黙った。