【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)
「優しくて大人しいのに勇敢だ。自分の主を決めたら、その主のためになんだってしてくれる」
「そんなにすごいのか」
「ああ。怖くて愛おしい」
「まるで理想の女かよ」
兵士は笑った。
「まったくだな」
もう一人の照れたような笑いが、足音共に遠ざかっていった。
ユルユルとスノウが立ち上がって、パサリと尻尾を振った。
彼は優しくスノウの腹を撫で、小さな声でありがとう、と言った。スノウも、小さく鼻を鳴らして答える。
藁だらけになった服を馬丁の子は景気よくパンパンと叩いた。
僕はそれを見て、そうすればいいんだと初めて知って、同じように叩いてみる。でも、なんだかうまくいかなくて、彼は笑いながら僕の服を叩いてくれた。
王宮の鐘がなる。もう帰らなくてはさすがに不味い。
「ごめん! またね!」
そう言うと、僕は後ろ髪を引かれる思いで厩舎から走り去った。
「またね!」
声が返ってきて嬉しかった。
部屋についてから、ふと我に返る。
「……あの子の名前、聞かなかったな」
また会えるかな。会いたいな。
一緒に乗馬できたらいいな。きっと叶わない夢だけど。
スノウの名前はスノウのままにしよう。
そうすれば、彼にいつか会える気がした。