【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)
僕はすっかりガッカリして、八つ当たりのように思い切り踏み込んだ。
軽妙な鍔迫り合い。キンキンと高い音が鳴る。かなりのやり手だ。グイグイと押せば、嬉しそうに押し返してくる。好戦的。試合を楽しんでいる。
軽やかな身のこなしが美しくて、どうしてもその辺の馬丁とは思えない。
知りたい。知りたい。この子を知りたい。
楽しくて楽しくて、こんなに楽しい試合は初めてだった。
キーンと彼の剣が飛んだ。
「ラッサンブレ! サリューエ!」
闘技場に歓声が鳴り響く。決着がついたのだ。
上がった息を整えながら、僕は彼に右手を差し出した。僕も彼の手を握り返す。手袋越しでも伝わる力強さ。
「決勝頑張って!」
彼はにこりと笑ってそう言った。息の弾んだ、あのウィスパーボイスで。
気持ちがいい子だ。
やっぱり、知りたい。もっと、知りたい。
こんなふうに他人に興味を持つのは初めてだった。