【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)
湖の淵にひざまずき、静かに凪いだ水面にそっと掌を浸けた。暖かく柔らかな良い水だ。
王子を無事に渡らせてくださいと、祈りを込めて魔法をかける。
ピシパシ音を立てて水面が凍りつく。一人分の氷が張ったところで、その上に立つ。
最高の魔力を込めて、胸から対岸にかって手を振った。
バキバキと音を立てて一気に対岸まで凍る。
従者達から溜息とどよめきが起こった。
初めて氷を渡るのだろうか。馬車を引く馬が不安そうに足踏みをする。私は馬を安心させるべく、笑いかけて鼻先をゆっくり撫でてやる。馬はそれで落ち着いたのか、小さく嘶いた。馬の吐息が白く立ち込める。
私は先頭を切って渡り始めた。万が一がないように、周りの空気も凍らせる。足元が氷を踏む度に、キラキラとダイヤモンドダストが光る。
よかった、無事に馬車が後ろをついてくる。
全員が渡りきったところで、サーベルを抜き、作った氷の橋に真っ直ぐに刺した。
バリンと盛大な音が鳴り響き、橋が崩れ落ちた。粉々になった氷が湖面を流れていく。夏の光を浴びて綺麗だ。
サーベルを振って鞘にしまう。
歓声と拍手で辺りが包まれた。ホッとする。