【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)

 それにしても、フェルゼンは誰にでも紳士的で優しいんだな。

 顔を上げて、理解したと微笑んだ。
 フェルゼンが息を飲む。頭の上に乗っていた手が、するりと後頭部に下がった。耳の下に沿わせるように、もうひとつの手が頬を撫でた。

「運命の人……」

 驚いて目を見張る。見たこともないフェルゼンの顔。熱に浮かされたような瞳が潤んでいる。
 見ていられなくなって、顔をそらす。

 頬にあった手の掌が、そのまま首をくだり鎖骨をなぞる。
 
 怖い。知らない、こんな男を私は知らない。

 慌てて離れようとする。ピッとリボンを引かれる感触。

「逃げたら解けてしまいますよ」
「!!」

 私は思わず、フェルゼンを突き飛ばして、髪が乱れるのもかまわずに慌ててその場から逃げ出した。
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