【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)

「逃げたら解けてしまいますよ」

 そう言えば、ベルンは俺を力の限りに突き飛ばした。

 解けるリボン。乱れる髪も厭わずに逃げ出すほど。

 手を伸ばして逃げられる。怯え切った瞳に心が痛む。
 明らかな拒絶。ベルンは俺とわかっているのに、それでも触れることを許さなかった。許されなかった。

 俺じゃ駄目なのか。

 突きつけられた現実に、泣きたくなる。

 逃げていくベルン。残されたリボン。
 俺は、残されたリボンを指に巻き取り、その残り香にそっとキスをした。

 この夜のことは誰にも秘密だ。
 ベルンにも、秘密だ。



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