【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)

 フェルゼンのせつない歌声が響く。
 心の中には君ばかり、そう嘆く歌声。

 密着した抱擁(アブラソ)。練習通りのはずなのに、今日はなんだか熱を帯びている。頬に手を添わせて見つめあう。触れそうで触れない唇。手首を捕らえて突き放す。
 吐息だけが絡まって、どうにかなってしまいそうだ。
 
 終わってしまえばもう二度と、シュテルと踊ることはないだろう。
 寂しさが胸の奥を押し上げる。絡ませあった指に力を籠めれば、答えるように力が返ってくる。

 本当はあなたが好き。ごめんなさい。嘘つきで。

 音楽がピタリと止まる。のけ反ってフィニッシュ。私の首筋にシュテルの唇が触れて、言葉もなく『すきだ』と息が震えた。息が止まる。

 泣き出したくなりそうなほど、狂おしい気持ちがつむじ風を生む。
 
 側にいるために嘘をつく。そんな我儘な自分が嫌いだ。


 一瞬の静寂の後、割れんばかりの拍手喝采。私たちは正面に向き直って、深々とお辞儀をした。


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