【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)
ヴルカーン侯爵は、一切アイスベルクを庇うことはなかった。しかし、その潔いまでの姿に、アイスベルクとの謀略説は日に日に弱まってきていた。
フェルゼンもその姿に従って、知らぬ存ぜぬを貫き通している。フェルゼンにしてみれば、不本意で苦しいところだろう。しかし、そうすることでアイスベルクの疑いを晴らすことができるなら、死んでもその役目を全うすると笑っていた。
不思議だったのは大魔道士ザントの動きだ。ザントは王宮に何も働きかけをしない。何を聞かれてものらりくらりと答えるだけだ。
それなのに、休みのたびに『私用』でアイスベルクに行く。ヴルカーン家でさえ距離を置く今、アイスベルクと懇意だということは、メリットがないはずなのに、あえてするだけの価値がそこにはあるのか。
その動きが、反アイスベルクを不安にさせた。
町の中には『宵闇の騎士』を復帰を願う、青い扇がそこかしこに広がっている。大きな声で騒ぐ者はいない。何かを表明することはない。ただ青い扇を持ち歩くだけだ。
だが、知っているものが見ればわかる。青い扇はベルンの印なのだ。
反旗の意志は見られないアイスベルク。
ただひたすらに許しを請うだけだ。
何の地位もないはずなのに、なぜか大きな波が沸き上がっていた。