【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)
35.アイスベルクの春
今日はぬし様の湖に行く。その後、町へ行こうと思う。町歩き用のワンピースを誰に気兼ねなく着られるようになったのに、胸にはポッカリと穴が開いている。
誇らしかった士官学校の制服。黒いマント。いずれは、騎士団の白いマントを羽織れたならと憧れていた。でも、その夢はついえた。いや、そもそも望んではいけない夢を見ただけだったのだ。
今年は湖の氷が解けるのが遅い。
秋の狩りシーズンにフェルゼンが来なかったからかもしれない。なんとなくだが思うのだ。ぬし様はフェルゼンを気に入っている。寂しがっているのかもしれない。
もう春も来ようとしているのに。
薄く張られた湖の氷に、一片の雪が舞った。
ごめんなさい。心の中で謝る。もう、フェルゼンはここには来ない。
すべて私の我儘で、いろんな人を傷つけた。それなのに心配してくれる人が居る。
ミシリ、湖の氷が鳴った。